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【レポート・アート】あいちトリエンナーレ豊田会場を巡る/清水雅人 2019.8特集

8月1日あいちトリエンナーレが開幕した。あいちトリエンナーレは3年に一度開かれる国内最大級の芸術祭。2010年に第1回を開催し、今回が4回目。これまで名古屋を軸に岡崎、豊橋でも開催されてきたが、今回は名古屋市豊田市にて開催。
今回の芸術監督はジャーナリストの津田大介氏。テーマは「情の時代」。79組のアーティストが参加している。

筆者はアートは全くの専門外なので作品内容についての批評は他に譲るが、豊田会場の雰囲気や先入観のない眼で見た感想をレポートしたい。

豊田会場は、細かく言うと全部で8ヶ所に分かれる。豊田市美術館、美術館すぐ隣にある旧豊田東高等学校、豊田産業文化センター敷地内にある日本家屋喜楽亭、VITSの地下にある豊田市民ギャラリー、新豊田駅前に新しくできた新とよパーク、T-FACE前のシティプラザ(具体的にはサイゼリヤの屋上スペース)、名鉄豊田市駅下の空き店舗数か所(総合案内所もある)、そして豊田市民文化会館。市民文化会館は9月にある演劇の会場なので、筆者は開幕日8月1日に7ヶ所を巡った。

巡り方に正解はない、どのような順番でもいいかなと思うが、筆者はまずは豊田市美術館に行く。まず驚いたのはその混雑ぶりだ。駐車場もほぼ満車の状態。中に入ると多くの人が「クリムト展 ウィーンと日本1900」が目当てだとわかる。もちろん筆者もクリムト展も観る。

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豊田市美術館駐車場 連日混雑している

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豊田市美術館入口

ここで料金の話。
クリムト展とトリエンナーレのセット券があって当日2,000円(ただしトリエンナーレは豊田会場のみ)。ちなみにトリエンナーレのチケットは1DAYパスポートが1,600円、期間中何度でも行けるフリーパスが3,000円(いずれも一般当日、学生割引あり)、こちらは名古屋豊田全ての会場を観覧できる。
入場料について詳しい説明が見当たらないのでここでまとめるが、1DAYパスポート1,600円又はフリーパス3,000円で名古屋豊田全ての会場の観覧ができるが、実質豊田会場で入場券が必要なのは豊田市美術館のみであとの会場は無料、ただし豊田市美術館トリエンナーレ展示だけの入場料設定はなく、トリエンナーレ全体の1DAYパスポート又はフリーパスか、クリムト展とのセット券が必要、ということでいいだろうか?(間違っていたらご指摘ください)

なので、トリエンナーレ豊田会場も名古屋会場も観たい人はトリエンナーレ1DAYパスポートを購入、豊田会場だけを観たい人はクリムト展とのセット券を購入、クリムト展は特に観ないが、、、という人はトリエンナーレ豊田市美術館展示はあきらめる、、、の選択となる。
クリムト展のレポートは本題ではないが、圧倒的なボリュームの作品数、クリムトの生涯に関する資料等で見ごたえは十分ある。19世紀末~20世紀初頭という芸術においても大きな転換期にあった時代風景もよくわかる内容となっている。じっくりでなく回っても2~3時間はかかる展覧だった。今回日本でのクリムト展は東京と豊田のみということもあってか連日たくさんの来場があるもよう。来場には曜日や時期を図った方がいいかもしれない。

変わってトリエンナーレ展示はゆったりと観られる。美術館展示なのでどちらかというと写真や彫刻などのフォーマットが多いが現代美術らしい発想を飛ばす展示も多数あった。

そこからすぐ隣の旧東高校へ。ここではプールでの展示。高嶺格さんによる 「反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで」詳しい説明をするのはよそう。言葉で説明するほど陳腐なことはない。まずはその大きさに圧倒され、時空が歪むような感覚と爽快な感覚がなぜか入り混じる。ここはぜひ一度観に行って欲しい、豊田会場のクライマックスの1つと言える。

※写真はあえて載せない、圧倒的な存在感を実物で体験して欲しい。

 

その後喜楽亭、市民ギャラリーと回る。この2ヶ所はインスタレーション/映像作品がメイン。そこから、新とよパーク(暑い中ボランティアさんお疲れ様です)、シティプラザ、そして豊田市駅下を回る。豊田市駅下には総合案内所があり(豊田市駅改札から階段を下りてきた正面、ロッテリア隣)、展示はその裏手と駅下モール北側の空き店舗4ヶ所ほど。

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豊田市駅下の総合案内所

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VITS地下にある市民ギャラリー

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新とよパーク展示

筆者は非常に駆け足でめぐってしまったがかかった時間は3時間ほど。映像作品が多い印象だが、それらをじっくり観賞すると倍はかかるか。

今年の1~2月にプレトリエンナーレ、地域展開事業が豊田市でも開催され、今回と同じように豊田市駅周辺数か所で多数の展示があったのだが(今回のトリエンナーレと同じ会場もあり違う会場もあり)、筆者は思いのほか面白かった印象があり、それに比べると今回の豊田市駅周辺の展示はちょっとあっさりしているというのが正直な感想。各々の作品は素晴らしいが、全体的なボリューム感やバラエティ感として。今回はぜひ豊田市駅周辺だけでなく、豊田市美術館、そして旧豊田東高校の展示も合わせて巡ることをおすすめする。

内容としては、もちろんすべてではないが戦争をテーマ、戦争を想起させる作品が多く印象に残った。動画「この人」でも石黒氏と話したが、日本だけでなく世界中に広がっている不穏な空気、不寛容の雰囲気をアーティストたちも同時的に感じているのだろう。

特に日本において8月は戦争の記憶と強く結びついている(もちろん筆者も含め今や国民のほとんどはあの戦争の体験はないわけだが、戦争と8月の記憶の結びつきはある)、例えば喜楽亭のホー・ツーニェンの展示は映像作品だが、映像映写のため日本家屋である喜楽亭の雨戸を締め切って暗闇にしてある。真昼間に雨戸を締め切っている暑さ(空調はあったが)、雨戸板の隙間から光が漏れている感じなど、これはまさに70数年前私たちの二代三代前の人たちが空襲警報におびえ声を潜めていた状況と同じなのでは、という体験していない“記憶”が蘇った。このようなイマジネートをさせるのがアートであり、特に空間と一体で作品を表現する現代アートのもっとも核の部分に触れた気がした。

おまけ。まだまだ暑い日が続くので、体を冷ましたい方はTAPマガジンにて豊田ご当地アイドルStar☆T(スタート)が紹介するタピオカ(7月号)、涼スイーツ(8月号)はいかがでしょうか。筆者は、7月号で紹介されていたGAZAビル1階のパン屋さんMatakuruBagel(マタクルベーグル)のタピオカをいただいた。

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マタクルベーグルのタピオカ

もう1つおまけ。トリエンナーレの展示会場ではないが、豊田市駅周辺会場と豊田市美術館・旧東高校の間にあるとよた大衆文化センター[TPAC]というビジターセンターがあり(ジャパンレンタカーやローソンのある小坂本町4丁目交差点隣接パチンコ店ZENTの裏側、旧波満屋旅館建物)、トリエンナーレ期間限定でカフェバーが開店していたり、トリエンナーレ外の秘密の展示や市民による展覧会等もこれから充実していく予定らしいのでぜひ立ち寄ってみてください。

https://www.toyotaartprogram.jp/t-pac

最後に、トリエンナーレではアート好きの人たちが市外から大勢豊田を訪れると思うが、これまで現代アートに縁がなかった、豊田市民のみなさんにもぜひ観覧して欲しいと思う。まさしく筆者もこれまで現代アートに縁がなかったひとりだが、展示を巡って「いや~なかなか面白いな~」とシンプルに思ったことは確かなので。ぜひ、見慣れた街並みにぽっかり穴をあけて待っている非日常を体験して欲しい。
あいちトリエンナーレは10月14日まで開催しています。

aichitriennale.jp

 清水雅人(しみずまさと)
映像作家・プロデュ―サ―。豊田市出身・在住。豊田市役所職員時代に市役所内に映画クラブを結成し、30歳の頃より映画製作を開始。映画製作団体M.I.F.設立、小坂本町一丁目映画祭主宰。2013年市役所を退職、独立し、映像制作、イベント企画、豊田ご当地アイドルStar☆T(スタート)プロデュースなどを手掛ける。豊田星プロ代表。映画「星めぐりの町」を実現する会会長、とよた市民アートプロジェクト推進協議会委員。

豊田ご当地アイドルStar☆Tオフィシャルサイト