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TAP/とよたアートプログラム

【コラム】Recasting Weeks 「HYBRID BUNKASAI」とは? 天野一夫

お待たせしました!

「HYBRID BUNKASAI」が開催されました。

と言っても知らない方も多いと思いますが、ほぼ一年前の昨年11月に、豊田市美術館の隣に位置する旧豊田東高校で、「On Stage! On High School!」と題しプレイベントが開催されました。それが「とよた市民アートプロジェクト」によるはじめの一歩でした。旧東高校の武道場をその名も「豊田武道館」と読み替えて、豊田発の国際的な活躍を見せるバンド「TURTLE ISLAND」を核としてステージを中心に展開し、そこに高校生バンドなど市民がさまざまな局面で横断的に係わる形となりました。結果は旧東高校OGも含めまさしく老若男女多様な人たちが来場し、約600名以上の来場者でにぎわいました。

 それ以後、「豊田武道館」に電気が通りましたが、相変わらず他の部室をはじめとした施設に電気は来ていませんし、水道も無く今回も隣の美術館からのもらい水です。しかし今回の「HYBRID BUNKASAI」では初めて公募で参加者を募ると、徐々に増えて最終的に35件の応募となりました。うれしい限りです。それも前回と異なり、舞台だけでなく、意外にも部室や温室などこれまで封鎖していた場所も新たに創造の場として開いてくれました。それだけに初めから展示場として用意されているところではなく、皆で自然状態に帰る前に掃除をし、最低限整え、再び息を吹き込む必要がありました。

 なぜか子どもが音響操作をしながら校内放送で放送局のようにライブのトークが始まり、公演を知らせ会場効果は充分です。あるいは突然に神出鬼没のパフォーマンスが始まり、発表、販売の傍らさまざまなワークショップが行われています。キッズから大人までが劇やダンスをし、ブラジル音楽・マラカトゥを奏で、校舎に壁画を描き、歌って踊る似顔絵屋が居る。さらに保見のブラジルの人々や豊田の写真、消しゴムはんこ、いけばな、伝統園芸を展示し、音楽・映像・小原和紙のワークショップがある。雑貨店やとよたで話題の食の店舗も参加します。それに現・東校の美術部の展示の参加も感激です。むろんそこにこれまでの「とよた市民アートプロジェクト」のRecasting Clubのメンバーも直接参加し、またサポートするなどいろいろな面で活躍しています。また自然に「とよた演劇アカデミー」や、豊田市美術館の作品ガイドボランティアなどこれまでの市内の活動が反映していることも特筆すべき点です。そこに既に全国的にメジャーデビューしているアーティスト(ミュージシャン「テニスコーツ」、独自の社会派のデザイナー山下陽光) や愛知県を中心に発表してきた作家たち(クロノズ、世紀マ3、ジェット達などのパフォーキンス・公演、そして豊田発のアイドル・Star☆T他)が参加してくれます。

 プロ/アマの区別なく、ひとつとして拒否せずに、何らかの趣味・考えで統一せずに全ての創造力を飲み込んで、まさに「HYBRID BUNKASAI」。整った完成度ではなく、そこには生のままのものが露出して出会おうとしています。作家も市民の中に入って試される場になるでしょう。意外にもこれはなかなかに無いことです。制度的な中で整理して発表し、理解しているからです。その制度をなるだけ低くすることで、どのような状態が生まれるのか、ディレクターのアーティスト・ユニット「Nadegata Instant Party」にも誰にもそれは未だ分り得ません。

かつては挙母城があり、そして県下唯一の公立女子高校が移転してほとんど未踏の10余年、そして数年後には(仮)豊田市新博物館が建設されようとしている(その計画も紹介される予定)場所。その数年の隙間のような時間と場所でさまざまな人たちによってどれだけのことが出来るのでしょうか?はたしてそのことがこの街の本当の将来の力のカギがあるのかも知れないのです。

Recasting Weeks 「HYBRID BUNKASAI」サイト → http://recastingclub-toyota-art.jp/event/517.html

天野一夫

豊田市役所文化振興課副主幹。国際美術評論家連盟会員。1959年生まれ。学習院大学大学院博士前期課程修了。

O美術館学芸員京都造形芸術大学教授、豊田市美術館チーフキュレーターを歴任。

主な企画展に「書と絵画との熱き時代」展(O美術館、1992年)、「ART IN JAPANESQUE」(O美術館、1993年)、「「森」としての絵画 ? 「絵」のなかで考える」展(岡崎市美術博物館、2007年)、「六本木クロッシング2007:未来への胎動」(森美術館、2007年/共同企画)、「近代の東アジアイメージ ? 日本近代美術はどうアジアを描いてきたか」展(豊田市美術館、2009年) [同展で、倫雅美術奨励賞美術史研究部門 (2010年) 等受賞 ] 、「変成態―リアルな現代の物質性」展(gallery αM、2009〜10年)など。

主な著作に『「日本画」 ? 内と外のあいだで』(ブリュッケ、1994年、共著)、『美術史の余白に――工芸・アルス・現代美術』(美学出版、2008年、共著) 、監修『復刻版 書の美』(国書刊行会、2013年)等がある。