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TAP/とよたアートプログラム

【コラム】とよた演劇祭『空の舞台』観劇レポート 清水雅人

 7月23・24日に、とよた演劇祭『空の舞台』が開催された。

 これは、とよた演劇アカデミー修了生の発表の場の1つとして、<TAG>発起人でもある石黒秀和氏主導で昨年まで開催されていたT−1とよた演劇バトルの後継イベントとして、アカデミー修了生たちが自ら企画して開催されたとのこと。豊田で演劇の公演をどんどん打っていって欲しいと思っているので、まずは開催されたこと祝福したい。

 会場は、豊田市駅前にある参合館のコンサートホールと能楽堂の間のフロアにある多目的ルームを使っていた。筆者もこんな部屋があることを知らなかったのだが、15m四方ほどの小さなスペースで、キャパシティ50くらいだろうか。窓側は全面ガラス張りで、8階ということもあってかなり見晴らしもよく(『空の舞台』はそこから名付けられたと思われる)、演出上も活用されていた。芝居をするのにちょうどいい箱がないというのは、豊田の演劇人材の間では長年言われてきたことだが、こうやって新しい場所を試していくのもいいことだと思う。専用劇場には及ばないかもしれないが、今回のように、工夫1つで使える場所はあると思う。

 それでは、上演された6本の短編演劇(30〜40分程度)を1作品ずつレポートしたい。ちなみに筆者は初日7/23に観劇した。

「唐麦」七味とうがらし(作:畠中直美 演出:古場ペンチ)

 6作品の中ではもっとも安定していたと思う。お盆に亡くなったおばあさんが帰ってくるという日本古来の言い伝えをモチーフにしながら、次女は独身、長男はバツイチ、孫も恋愛のにおいなしという設定が今風でいい。何より、演者の演技がしっかりしていて(筆者は特に孫役の方の演技にとても惹かれた)、設定にすんなり入ることができた。的確な演出がなされていた証拠だと思う。

 芝居の最後、幽霊のおばあさん役の演者が二役で長女として出てきた時の、静かにドキッとする瞬間、登場人物たちと観客の共感がピタッと重なる感じ、これこそ芝居の醍醐味だと感じることができた。

「君がそばにいてくれるかぎり」青春(アオハル)創造劇場

(作:青春(アオハル)創造劇場 構成:図師久美子 脚色・演出:小林俊彦

 とよたこども創造劇場出身の中高生が、自身のキャラクターを活かした絶妙の役作りで演技がとてもみずみずしく、楽しめた。ストーリーにもう少し工夫があってもとも思うが、演者のよさがそこを補って30分を一気に見せた。

「フィクション」劇団エンジン(作・演出:太田竜次郎)

 ネタ切れの作家のところに強盗が入ったら、、、という三谷幸喜的なシチュエーションコメディで、もっとも観客が入りやすかった作品だったと思う。が、シチュエーションコメディの肝は、周到な伏線、ネタ振りだったりするので、そのあたりがもう少し丁寧だとよかった。演者の演技が安定していただけに、惜しい。

 段ボールのみによる美術が世界観を作り上げいて、非現実的なシチュエーションコメディへ観客を導く雰囲気を出していたと思う。

「子どもたちの子どもたちの子どもたちへ」劇団〜SUN〜(作・演出:どうまえなおこ)

 ブラジルと日本、川のこちら側と向う側、祖母と母、母と子、、、さまざまな横軸と縦軸が交錯する世界観、幾何学的と形容したくなる構成感は、作演出のどうまえ氏が得意とするところで、変わらず作家性を感じた。ただ、もっと何か、、、圧倒的な何かが欲しいと思うのは筆者だけだろうか。観劇時、知り合いの高齢男性が偶然隣になったが「よくわからんな〜」とつぶやいていた。わかりやすいオチをつけろということではなく、もっと圧倒的な作家性を出してしまうとか。期待しているだけに突き抜ける何かを探り当てて欲しいと思う。

「願い」劇団カレイドスコープ×ひつじの森のよつば村(作:足立和久 演出:若杉理恵)

 ロールプレイングゲーム風の世界に入り込んでしまった設定は面白いし、設定を作り上げるためのセットや衣装もよかったのに、あえてなのかベタを外すようなストーリー展開や演技はちょっと残念だった。シチュエーションを活かしてもっとベタに笑いを取りにいってもいいのに、と思ってしまった。

「空の介護」演劇集団∞〜むげんだい〜(作・演出:小林俊彦

 とよた演劇アカデミーを昨年度終了した8期生のグループということで、つたなさは感じたが、演者のみなさんが楽しんでる雰囲気が伝わってきた。ぜひ、これからもがんばっていって欲しい。

 筆者は、恥ずかしながら地元での観劇は約2年ぶりだったが、演者のレベルは確実に上がっている印象を受けた。もっと長いものを観たいと思わせる劇団もあった。ただ、全体的に、自身の劇団のウリは何かを把握して、ここだけは負けないという突出した何かを魅せる努力をもっとして欲しいとも感じた。良く言うとどこもまとまっている、悪く言うとどこもこじんまりと小さい。「まだ上手くやろうとするほどのベテランじゃないだろう?もっとパワーを見せてくれよ、パワーを!」ってちょっと思っちゃいました。

 今回は、短編演劇祭というフォーマットなのでしかたない部分もあるとは思うが、各劇団が色々と発表の場を作っていって欲しいと思う反面、時には豊田の演劇人材のタレント(才能)を結集させる芝居を打って欲しい、とも思わせた観劇だった。

清水雅人

映像作家・プロデューサー。<TAG>発起人。映画製作団体M.I.F.元代表。映画製作の他にも、小坂本町一丁目映画祭運営、豊田ご当地アイドルStar☆Tプロデュ―スなどを手掛ける