TAP topics

TAP/とよたアートプログラム

【コラム】始めるチカラ <TAG>事務局 松下智美

2013年、恐らく<TAG>最後の投稿。

そんなときに非常に私的な書き出しで恐縮であるが、私は現在0歳児の母をしている。にこにこ笑いながら、けれどまだ言葉を話せない娘との日々。芝居に関わりたいと思っても、自分だけの時間を持つのは難しい。トイレのドアを閉めて入ることさえなかなかできない状況である。食事の支度、オムツ交換、授乳に入浴、寝かしつけ。家事を一通り終えてダイニングでほっと一息とお茶を入れた途端、目を覚ました娘の泣き声。再度寝かしつけをして戻り、冷めてしまったお茶をゴクゴク飲む。そんな、子育て中の人にとってはごくごく当たり前の、日常。

決して、悲観的なわけではない。毎日は、楽しくて発見だらけ。それこそエキサイティングだ。けれど、やっぱり大変だなあと思う日もたまにはある。同じような日々の繰り返しをしているときなど、「芝居に関わりたいけれど、今は関われないなあ」と、思ってしまう。「できない」ことの言い訳ばかり、上手になっていく。ただそれで納得しているかどうか、話は別。

さて、本題に入る。

今月21日、本ブログでも告知させていただいた短編映画企画「さゆみ企画」の上映会に行ってきた。この上映会、豊田で活躍する役者・加東サユミさんの「何か面白いことをしたい」という所謂思いつきから始まった企画である。

言い訳が癖になっている人間は、きっとこのように言うだろう。

「何か面白いことをしたい」

「でも」

「豊田じゃ無理だよね」

近頃「できない」言い訳が得意な私が言うのだから間違いない。

けれど今回の企画は、上記でいうところの「でも」からの言葉が続かなかったから実現したものである。

「何か面白いことをしたい」

「今豊田にないのなら」

「自分たちで作ってしまおう」

エネルギー溢れる、4人の監督。「監督」といっても、うち3人は映画を撮ることそのものが初めての人間である。無謀と言う人もいるかもしれない。けれど、カタチになって、上映会を迎えている。

当然、カタチにすることは簡単なことではない。その簡単ではないことを、楽しみながらそのエネルギーでもって突っ走って、公開できているところに大きな意味がある。

暑い夏の日の撮影。そして寒い冬の日、お寺での上映会。各監督が上映前、上映後に発した言葉は正直そんなに覚えていないのだが、それぞれがとても楽しそうだったことが印象的。辛かった、とか、大変だった、とか、さて言っていただろうか。いい大人が4人、そして企画発案者のサユミさんを加えて5人、子どものように無邪気な顔をしていた。

今回の企画、キャッチコピーは

「書いちゃえ!演っちゃえ!撮っちゃえ!」

まさにそんな雰囲気が現れている上映会だった。それぞれの映画に対する細かい感想をここで書くのは控えさせてもらうが、全体についての個人的な感想を言うなら、荒削りだがエネルギーを感じる作品たちだった。ああ関わりたい、と思った。できることはないけれど…と、言い訳ばかり繰り返すのはやめて。

「さゆみ企画」は、第二弾が企画されている。されている、とはいっても、まだまだ未知数。なぜなら、現在新たな撮り手を募集しているからだ。このブログにアクセスしている人かもしれない、今まで演劇にも映画にも関わったことがない人かもしれない、豊田の商店街で育った人かもしれない。誰が監督になるのかは誰も知らない。

豊田には力がある。何かを始めようとする、新しい力があちらこちらに転がっている。そう信じられる企画。その現場にいられたことが、まず幸せ。

今回見逃した方、次はあなたが中心で、ぜひ。

松下智美 

とよた演劇アカデミー4期生修了後、<TUG>に参加。総務担当を経験し、<TAG>事務局メンバー。現在は子育てにも奮闘中。