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TAP/とよたアートプログラム

【コラム】芸術って?〜私的考察〜 石黒秀和

3年に一度の現代アートの祭典、あいちトリエンナーレ2013が閉幕した。絵画や彫刻などの美術作品だけでなく、建築や演劇、映像、ダンスなど芸術の定義を幅広くとらえ都市を舞台に現代アートを日常の中に取り込もうというのがこの愛知の、トリエンナーレの特色ではないかと思うのだが、2回目を経てその試みは概ね成功しているのではないかと思う。それはまさに芸術が人々の生活に深く関わり、その暮らしや営みを豊かにする言わばなくてはならないものであるということを示す大いなる実証でもあると思っているのだが、もっと言うと芸術は人の命になくてはならないものだと、ここんとこ僕は本気で信じている。人は生きていくために芸術がなくてはならない。この極論が、しかし僕の今後の創作のテーマであり、一連の活動の原動力でもある、と思っており、そこで今回はそんな視点で、ここ数年の自身の活動を振り返ってみたいと思う。言わば実証のための考証。長文の上至って私的で申し訳ないがお時間あればしばしお付き合いを。

先ず6年目を迎えたとよた演劇アカデミー。公費も投入しているこの事業は、演劇を軸に舞台芸術の知識と技術を学び、地域の文化芸術活動を支える人材の育成を目的にしている。つまり、地域のイベントや公演で活躍するスタッフやプロデューサー、役者などの育成である。この事業を発案した経緯には、それ以前に関わっていた市民創作劇や市民野外劇への反省があった。いや、両事業が間違っていたわけではない。それはそれなりの成果があった。ただ、ではその後何が残ったか? どう、この街を変えたか? どう今に続いているのか? つまり、本当に公の利益となったのか? そこでフと立ち止ってしまったのだ。この疑問は大変重要だと考えている。公費を投入する以上、例え市民劇でも、公の利益となっているのか? その事を問わねば、いずれ文化芸術に対する公費投入は全て否定されてしまう、そんな危機感を、僕は持っている。好きなことを好きな人たちが好きなようにやっている。それが文化芸術活動だと一蹴されるのを、僕たちは今明確に否定出来るだろうか? その問いへの挑戦が、この演劇アカデミーだと思っている。成果は、出ている。少なくとも僕はそう確信している。なぜなら、公の文化芸術活動に対し、それは何なのか、考える人材が出てきているからである。なぁーんだそんなこと、と一笑に付さないで欲しい。これが重要なのだから。これが難しいのだから。これが始まりなのだから。いずれそれは目に見える成果を生み出すはずなのだ。

次はTOCの活動。TOCとは、Toyota Original Company の略で、僕が主宰する市民演劇ユニットのことだ。企画ごとに市民を公募し公演を打つ。先月も豊田市美術館でのスローモーションパフォーマンス&群読野外劇公演を行った。限られた公募にも関わらず市内外から20名を越す人たちが参加してくれ、観客も、公式発表500名。大成功だった。この企画は、演劇をとにかく身近なものにしたいと言う動機で始めた。演劇をやりたいと思ったら、豊田では劇団に入るかアカデミーを受講するか、あるいは自分たちで立ち上げるか、いずれにせよ気楽に、とはいかないのが現状である。そもそも演劇は一般の人にはちょっと気が引けるものではないかと思っている。実際僕もそうだった。変わった人たちの集まり、と言う偏見というか、誤解もあった。興味はあるけどまだよく分からない、と言う人たちがお試し気分で参加できる場。その具現がTOCだと思っている。その先には、自身の劇団構想もないわけではないのだが、とにかく演劇は閉鎖性が高いと僕は思っている。とかく地方においては。妙な特権意識も芽生えやすく、新しい才能が育たない。いや育てない。だから人の流れが生まれやすい環境を作る。あるいは劇場すら飛び出し日常の中に舞台を作る。その試みこそがTOCなのである。演劇は、文化芸術は、ある特定の人のものではないのである。

3つ目に、僕らは今、サユミ企画というプロジェクトで短編映画を創っている。豊田市駅前商店街を舞台に劇作家、役者など必ずしも映画に関わっていない人材が街を舞台にした短編映画を撮る。そして街中で上映する。第一弾の上映会は12月21日に街中のお寺で予定している。またこの企画にはすでに第二弾が予定されている。来年再開発での取り壊しが決まっている豊田市駅前通り商店街北地区。その商店街を舞台にした10本あまりの短編映画を市民の手で作るのだ。取り壊される前の最後の店や人の記録と言う意味もある。これから監督候補も大募集なのだが、学生あるいは消えゆく店の店主自らが監督を務めても面白いと思っている。街づくりは、あるいは壮大な文化芸術活動であると僕は思っている。そこで人々がいかに豊かに暮らすか、楽しむか、つまりはそのための台本を書き、演出し、時には出演もする。街はまさに劇場でありスクリーンなのだ。昨年、市の事業として実施した<TUG>も、まさにその考えのもとにあった。中途半端に終わってしまったが、僕等の活動はまだ終わっていない。

さて、最後に、僕には今一つの構想がある。正直まったくの思いつきではあるのだが、3年後のトリエンナーレ、この豊田市も会場にできないか。メインは豊田市美術館と旧東高校。豊田スタジアムからそこを結ぶ導線上を、言わば屋外美術モールとでも考え、中心市街地一帯を人が歩く街にできないか。巡ってワクワクする街にできないか。人材は、いる気がするのだ。環境も、悪くはないと思っている。次が無理なら、その次でもいい。実現したら、きっと変わる、この街は、まさに劇的に。どこかに賛同者いないだろうか?

人が生きる為には、芸術が必要です。

これからも、それを証明する為に、足掻いていこうと思います。

石黒秀和

劇作家・演出家。富良野塾にて倉本聰氏に師事後、豊田市において豊田市民劇、豊田市民野外劇、とよた演劇アカデミー等の事業他、多数の演劇の作・演出を手掛ける。TOCToyota Original Company)代表。